「年金は65歳からもらうもの」と思っている人は多いかもしれません。
しかし、公的年金は65歳を待たなくても60歳から受給することが可能です。この制度を「繰り上げ受給」といいます。
近年は物価高や老後資金への不安から、「早く年金を受け取った方がいいのでは?」と考える人も増えています。
一方で、「繰り上げ受給は損をする」「一生減額されるからやめた方がいい」という声も少なくありません。
実際のところ、年金の繰り上げ受給は得なのでしょうか、それとも損なのでしょうか。
ここでは、繰り上げ受給の仕組みやメリット・デメリット、どのような人に向いているのかを詳しく解説します。
年金の繰り上げ受給とは?
老齢基礎年金や老齢厚生年金は原則65歳から受給開始となります。
しかし本人が希望すれば60歳から64歳までの間に受給を開始できます。
これが「繰り上げ受給」です。
年金を早く受け取れる代わりに、受給額は減額されます。
減額された年金額は一生涯続くため、制度を理解したうえで選択することが重要です。
繰り上げ受給でどれくらい減額される?
2026年現在、繰り上げ受給による減額率は1か月あたり0.4%です。
例えば、
- 64歳から受給:4.8%減額
- 63歳から受給:9.6%減額
- 62歳から受給:14.4%減額
- 61歳から受給:19.2%減額
- 60歳から受給:24%減額
となります。
国民年金満額で比較すると
2026年度の国民年金満額は月額70,608円です。
60歳から受給した場合は24%減額されるため、
70,608円 × 76%
=53,662円
となります。
つまり毎月約1万7,000円少ない年金を一生受け取ることになります。
繰り上げ受給のメリット
① 早くお金を受け取れる
最大のメリットは、年金を早く受け取れることです。
65歳まで待たずに受給できるため、
- 退職後の生活費
- 医療費
- 住宅ローン
- 介護費用
などに活用できます。
収入がなくなった人にとっては大きな安心材料になるでしょう。
② 受給総額で有利になるケースがある
「繰り上げ受給=損」とは限りません。
年金は長生きするほど有利になる仕組みです。
逆に平均寿命より早く亡くなった場合は、早く受け取った方が総受給額が多くなるケースがあります。
健康状態に不安がある人にとっては有力な選択肢となります。
③ 老後資金の取り崩しを減らせる
65歳まで無収入状態が続くと、貯蓄を大きく取り崩す必要があります。
繰り上げ受給を利用すれば、
「預金を守りながら生活する」
ことも可能になります。
繰り上げ受給のデメリット
① 一生減額されたままになる
最大のデメリットです。
一度繰り上げ受給を選ぶと、その後に取り消すことはできません。
また、減額率も一生変わりません。
例えば60歳から受給すると、90歳になっても100歳になっても24%減額されたままです。
② 長生きすると不利になる可能性がある
一般的には80歳前後が損益分岐点とされています。
長生きするほど通常受給の方が有利になる傾向があります。
平均寿命が延びている現在では、この点は慎重に考える必要があります。
③ 遺族年金などに影響する場合がある
年金制度は複雑で、繰り上げ受給によって一部の給付に影響が生じるケースがあります。
事前に日本年金機構へ確認することが重要です。
「年金はなくなる」は本当?
SNSでは、
「どうせ将来は年金がもらえない」
という声も見られます。
しかし専門家の多くは、公的年金制度そのものがなくなる可能性は極めて低いと考えています。
年金は現役世代が支える社会保障制度であり、制度維持のための改革も継続的に行われています。
受給額の変化はあっても、制度自体が消滅する可能性は高くありません。
繰り上げ受給が向いている人
以下に当てはまる人は検討する価値があります。
収入がない人
退職後に生活費を確保したい人。
貯蓄が少ない人
65歳まで生活資金が持たない場合。
健康面に不安がある人
長期間受給できる自信がない場合。
早めに老後を楽しみたい人
旅行や趣味などに資金を使いたい人。
繰り上げ受給をおすすめしない人
以下のような人は慎重に判断しましょう。
十分な貯蓄がある人
65歳まで生活費を確保できる場合。
現役で働き続ける人
給与収入があるなら急いで受給する必要はありません。
長寿家系の人
長生きする可能性が高い場合は通常受給や繰り下げ受給の方が有利になることがあります。
繰り下げ受給との違い
年金は75歳まで受給開始を遅らせる「繰り下げ受給」も選択できます。
繰り下げ受給の場合は1か月あたり0.7%増額されます。
70歳まで遅らせると42%増額、75歳まで遅らせると84%増額になります。
つまり、
- 早くもらうなら繰り上げ受給
- 多くもらうなら繰り下げ受給
という選択になります。
まとめ
年金の繰り上げ受給は、60歳から年金を受け取れる便利な制度です。
ただし受給額は最大24%減額され、その影響は一生続きます。
一方で、
- 退職後の生活費を確保できる
- 貯蓄の取り崩しを抑えられる
- 健康状態によっては有利になる
といったメリットもあります。
大切なのは「得か損か」ではなく、自分の健康状態や資産状況、働き方に合った選択をすることです。
年金は老後生活の重要な柱です。繰り上げ受給を検討する際は、ねんきんネットなどで将来の受給見込み額を確認しながら慎重に判断しましょう。


